S12-P01 固有スキル【ChatGPT】で異世界全自動化 〜魔法陣はCodexで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜

第15話: ゴーレム量産計画

第2アーク · 5,819文字 · revised

三体のゴーレムが、朝靄(あさもや)の中を歩いている——その足音で、レンは目を覚ました。

窓を開けると、冷たい秋風が頬を刺した。吐く息がうっすらと白い。つい一ヶ月前まで汗ばむほどだった朝が、いつの間にか上着なしでは寒いくらいになっている。遠くの山脈の木々が、緑から黄に、黄から赤に色を変え始めていた。

一体目は、身長二メートルの農業用。両腕が(くわ)の形状に変形しており、畑の(うね)を一定間隔で正確に掘り進んでいく。テラの土属性の回線が地中の水脈と養分の分布を解析し、ゴーレムに最適な耕作パターンを送り続けている。

二体目は、三メートル近い建築用。丸太を軽々と担ぎ、村の南側に新しい倉庫の骨組みを立てている。グレンから教わったヴァイスハール式の基礎陣を足元に刻んであり、建物の耐久性が以前の設計より格段に上がっていた。あの老師に叩き込まれた伝統の魔法陣が、こんな形で活きるとは——レンは少しだけ口元を緩めた。

三体目は、小柄だが頑丈な運搬用。村と近隣の森を往復し、木材と石材をせっせと運んでいる。シルフの風属性回線が周囲の天候を読み、雨が来る前に荷を屋根の下へ退避させる判断まで自律的に行っていた。

レンは広場の隅に腰を下ろし、膝の上に頬杖をついた。

一号機のアダムが畑の管理を担当し、新しい三体がそれぞれの持ち場で動く。四体のゴーレムが同時稼働し、四属性の精霊が各ゴーレムの専門領域を補佐する。

——システムとして、ようやく形になってきた。

「ご主人様」

ノエルの声が水の回線を通じて届いた。

「南東の丘陵地帯に、商人の荷馬車が三台確認できました。本日の午後には村に到着するかと」

「商人? この辺境に?」

「噂が広まっているようです。『人手を使わずに開墾を進める奇妙な村がある』と。交易の可能性を探りに来たのでしょう」

レンは目を瞬いた。

ヴィントヘルムに商人が来る——それ自体が、つい一ヶ月前まで考えられなかったことだ。辺境の小さな農村には、交易する価値のあるものが何もなかった。

だが今は違う。ゴーレムが開墾した農地は面積が倍になり、テラの土壌分析で収穫量は三倍に伸びた。余剰の穀物がある。建築資材もある。この村には「売るもの」ができたのだ。

「ねえねえレン! 馬車が来るよ! あと二時間くらい!」

シルフの風の回線が、はしゃいだ声を運んでくる。風の精霊は遠方の音を拾うのが得意で、馬車の車輪の音すら聞き取れるらしい。

「わかった。村長に伝える」

レンが立ち上がろうとした時、地面がもこりと隆起した。テラだ。足元の土が、矢印の形に盛り上がって村長の家の方角を指している。

「あっち」——テラなりの親切。

「……ありがとう、テラ」

テラの土の回線から、かすかに温かい波動が返ってきた。照れている——のかもしれない。

***

村長のヴェルナーは、白い髭を撫でながら窓の外を見ていた。

ハンナの父親であるこの老人は、穏やかだが芯の強い性格で知られている。村の百年を見てきた——そう錯覚するほど、その灰色の目には長い時間が刻まれていた。

「レンハルト。最近、うちの村に人が集まってきおる」

「ええ。商人が来ます。今日の午後に」

「ほう。わしが若い頃は、年に一度行商人が来れば珍しいくらいだったがのう」

ヴェルナーが振り返った。

「お前さんが来てから、三ヶ月。畑は倍になり、家は十軒増え、井戸は三つになった。近隣の村から移住してくる者も出始めておる」

レンは黙って聞いていた。

「わしはな、レンハルト——嬉しい反面、少し怖いんじゃ」

「怖い?」

「変化が速すぎる。この村は百年かけて今の形になった。それがたった三ヶ月で——」

ヴェルナーの声が、静かになった。

「ついていけん者が出てくるんじゃないかと、心配でな」

レンは言葉を選んだ。

「……すみません。急ぎすぎたかもしれない」

「謝ることじゃない。良いことじゃよ、村が豊かになるのは。ただ——」

ヴェルナーがレンの目を見た。

「走る時は、後ろも見てくれ。ついてこられん者を、置き去りにせんようにな」

グレンに続いて、村長にも言われた。効率の向こう側にあるもの。レンの中で、同じ問いが何度も繰り返されている。

「気をつけます」

「うむ。——さて、商人を迎える準備をせねばな」

窓の向こうでは、黄色く色づいた木々が秋風に揺れていた。ヴェルナーの机の上には、収穫祭の計画書が広げてある。村が——いや、街が、初めて迎える秋の祭りだ。

***

午後。

三台の荷馬車が、ヴィントヘルムの入り口に到着した。

馬車から降りてきた商人の一人が、村の風景を見て目を丸くした。

「なんだこりゃ……辺境の寒村だと聞いてきたが」

道は整備され、畑は整然と並び、新しい建物が建ち並んでいる。遠くでゴーレムが丸太を運んでおり、その傍らを村人が普通に歩いている。ゴーレムを恐れる様子がない。日常の一部になっている。

「交易路ができそうだな」商人が顎を撫でた。「穀物の余剰があると聞いたが?」

「あります。村長に案内します」

レンが対応する横で、カイルが荷馬車を興味津々に眺めていた。

「おい、この荷馬車、重そうだな! 俺が担いでやろうか!」

「いや、馬がいるから……」

「馬より俺のほうが力あるぞ!」

カイルが荷馬車の後部を両手で掴み、持ち上げようとした。

荷馬車は——微動だにしなかった。

「ぐ、ぐぐ……!」

「カイル殿、無理はお体に障りますよ」

ノエルが涼やかに言った。カイルは顔を真っ赤にして力を込めているが、馬二頭分の荷はさすがに人間一人では持てない。

そこに建築用ゴーレムが通りかかった。

レンの命令ではない——運搬の復路でたまたま通りかかっただけだ。ゴーレムが荷馬車を見て足を止め、片手で荷台の端を持ち上げた。

軽々と。

カイルが全力で動かせなかったものを、ゴーレムは片手で。

「…………」

カイルが固まった。

「くそっ! 俺のほうが力あるはずなのに!」

「カイル。ゴーレムと腕力を競うのはやめろ。勝てない」

「勝てる! 次は素手で——」

「やめろ」

カイルは拳を握りしめて悔しそうにしていたが、建築用ゴーレムが丸太を担いで去っていく背中を、じっと見つめていた。

「……レン」

「なんだ」

「俺、ゴーレムに勝てないこと、たくさんあるのかな」

珍しく、カイルの声が小さかった。

レンは少し考えてから答えた。

「力比べでは勝てない。持久力でも勝てない。正確さでも勝てない。——でもカイル、お前にしかできないことがある」

「何だよ」

「ゴーレムは、仲間のために命を張る判断ができない。戦場で咄嗟に誰かを庇うのは、お前みたいな奴にしかできないことだ」

カイルが目を瞬いた。

それから——大きな声で笑った。

「よくわかんねえけど、褒められてる気がする!」

「褒めてる」

「よし! じゃあ腹減った! エルナちゃんのとこ行こうぜ!」

切り替えが早い。レンは苦笑しながらカイルの後を追った。

***

エルナのパン工房は、忙しかった。

今までにないくらい、忙しかった。

村に人が増え、商人が来るようになり、パンの需要が跳ね上がっていた。工房の前には行列ができ、エルナは朝から夕方まで窯の前に立ちっぱなしだった。

「いらっしゃい——あ、はい丸パン三つですね——おつり銅マナ二枚——次の方!」

エルナの声は明るいが、額に汗が浮いている。小麦色の髪を後ろで束ねた後れ毛が、頬に張りついている。

レンとカイルが行列の最後尾に並んだ。

「繁盛してるな」

「あんたのせいよ」

エルナが客を捌きながら、レンを一瞥した。

「村に人が増えたから、パンが足りないの。嬉しい悲鳴って言いたいけど、悲鳴のほうが大きいんだけど」

「ゴーレムに手伝わせようか?」

「いらない」

即答だった。

「パンは手で焼くの。それだけは変えない」

レンは——予想通りの返事だったので、笑った。

「じゃあ、俺が手伝おうか」

エルナの手が、一瞬止まった。

「……あんたが?」

「前に教わったろ。下手くそだけど、成形くらいはできる」

「20点だったじゃない」

「あれから自主練した」

「嘘でしょ」

「嘘じゃない。25点くらいにはなってるはずだ」

エルナが、ぷっと吹き出した。

「5点しか上がってないじゃない」

「5点の進歩を笑うな」

エルナは忙しそうに手を動かしながらも、口元が緩んでいた。

「……しょうがないわね。じゃあ明日の朝、早く来て。五時よ」

「了解」

「遅刻したら永久出禁だから」

「厳しいな」

「パン工房は戦場よ」

カイルが「俺も手伝う!」と名乗り出たが、エルナに「あんたは食べる専門」と却下された。

***

夕暮れ。

レンは村の外れの丘に立っていた。

秋の西日が低く、影が長い。丘の草は夏の青さを失い、黄金色の穂が風に揺れている。吹き上げる風に木の葉が混じって、乾いた音を立てながら足元を転がっていった。

一ヶ月前にも、同じ場所から村を見下ろした。あの時は藁葺き屋根の小さな集落だった。

今は——違う。

新しい建物が立ち並び、畑は広がり、井戸が増え、道が整備されている。南の入り口には商人の荷馬車が停まり、村人と商人が何かを交渉している。遠くでゴーレムが倉庫の壁を組み立てている。子供たちがゴーレムの足元を駆け回って遊んでいる。

もはや「村」と呼ぶには大きくなりすぎていた。小さな街だ。

「ご主人様」

ノエルの声が、静かに届いた。

「現在の居住人口は百二十七名。三ヶ月前の三倍です。近隣集落からの移住希望者が、さらに十五名ほど確認されています」

「ありがとう、ノエル。人口統計まで取ってくれてるのか」

「水は全てを記憶しております。洗濯の回数と使用水量から世帯人数を推定するのは、わたくしにとって朝飯前でございます」

「……プライバシーは大丈夫か?」

「ご安心ください。個人情報の取り扱いには細心の注意を払っております」

本当かどうか、少し怖い。

「綺麗だな」

イグニスが人型化し、レンの隣に立った。赤い髪が夕日に照らされて、本物の炎のように揺れている。

「何がだ、お前が言うと似合わないぞ」

「……街のことだ。馬鹿」

イグニスがそっぽを向いた。

「百年前にこの辺を通った時は、何もなかった。草原と風だけだ。それが——」

イグニスの金色の瞳が、街を見渡した。

「三ヶ月でこれか。お前は本当に、とんでもない術者だな」

「俺だけの力じゃない。イグニス、ノエル、シルフ、テラ——お前たちがいなければ、ただの魔法陣描きだ」

「ふん。わかってるなら良い」

シルフがどこからともなく飛んできた。

「ねえねえレン! 明日も何かやるの? ボク暇なの嫌だよ!」

「明日は——パン工房の手伝いだ」

「パン? ボクパン食べられないよ、風だし」

「食べなくていい。匂いを運んでくれ。村中にパンの匂いを広げるんだ。宣伝になる」

「わかった! 匂い運ぶの得意!」

シルフが嬉しそうにくるくる回った。風が吹き、草が揺れた。

テラは丘の麓に立っていた。大きな体で、黙って街を見守っている。足元の草花が、テラの周囲だけ少しだけ元気に咲いていた。

レンは丘の上から、もう一度街を見た。

自分が作った——いや、みんなで作った街。

ゴーレムが建て、精霊が支え、村人が暮らし、商人が集まり——エルナがパンを焼く街。

胸の奥に、温かいものが広がった。前世では味わったことのない感覚だ。プロダクトがローンチした時の達成感とも違う。もっと——もっと素朴で、もっと確かなもの。

その時、背後から足音がした。

「あんた、またここにいるの」

振り返ると、エルナが立っていた。エプロンを外し、髪を束ねたまま。肩に薄い上着を羽織って、手にはパンの入った籠を持っている。頬が夕日と秋の冷気の両方で紅く染まっている。

「閉店後の余りもの。また配りに来たんだけど」

「また俺にくれるのか」

「あんたが変なとこに立ってるからでしょ。ここに立ってなければ、別の人にあげてたわよ」

レンはパンを受け取った。焼きたてではないが、まだ柔らかい。かじると、いつもの甘さが広がった。

エルナが隣に立ち、街を見下ろした。

しばらく、二人とも黙っていた。風がエルナの小麦色の髪を揺らしている。空が橙から紫に変わり始め、街に灯りが一つ、二つと灯っていく。日が落ちるのが早くなった、とレンはぼんやり思った。夏の頃はまだ明るかったこの時間が、もう薄闇に包まれ始めている。

「……大きくなったわね、この村」

「ああ」

「うちの工房の前に行列ができるなんて、夢にも思わなかった」

「良いことだろ」

「……うん」

エルナの声が、少し小さくなった。

「忙しいけど——嬉しい。おばあちゃんが残してくれた工房が、こんなに人に求められるなんて」

レンはエルナの横顔を見た。夕日に照らされた顔は、少しだけ潤んで見えた。

「……ねえ」

「なんだ」

「明日——パン工房の棚を増やしたいんだけど」

「ゴーレムに——」

「違う」

エルナがレンを見た。まっすぐに。風で舞い上がった枯葉が一枚、二人の間を横切っていった。

「ゴーレムじゃなくて、あんたが手伝ってくれない?」

レンは一瞬、言葉を失った。

ゴーレムなら一時間で終わる。レンが手伝えば、たぶん半日はかかる。不器用で、効率は悪くて、仕上がりも完璧じゃない。

でも——エルナが求めているのは、効率じゃない。

「……いいよ」

「ほんと?」

「五時に行くんだろ。棚も一緒にやる」

エルナが——笑った。

照れくさそうに、でも嬉しそうに。いつもの辛辣さが消えて、年相応の少女の笑顔がそこにあった。

「じゃあ、遅刻しないでよ」

「しない」

「絶対よ」

「絶対」

エルナは籠を抱え直し、丘を下りていった。

その背中を見送りながら、レンは自分の手を見た。

魔法陣を描く手。ゴーレムを動かす手。前世ではキーボードを叩いていた手。

明日は——その手で、棚を作る。

グレンの言葉が蘇った。

「手が通っとらん」——お前の魔法陣には、手の温もりがない。

たぶん、魔法陣だけの話じゃない。

レンは拳を開いて閉じて、もう一度開いた。

精霊が四体揃った。ゴーレムが四体稼働している。村は街になり、商人が来て、交易路ができつつある。

だが——明日の朝五時に行くのは、パン工房だ。

ゴーレムでも精霊でもない。自分の手で、棚を作りに。

それが今、一番やりたいことだった。

街の灯りが増えていく。あちこちの家の窓から、夕餉の煙が立ち上っている。どこかから子供の笑い声が聞こえる。空気には、どこかの畑で焼かれた枯草の匂いが混じっていた。秋の夕暮れの、乾いた匂い。

レンは暗くなりかけた空を見上げた。

異世界に来て、三ヶ月と少し。

まだまだ——やることは山ほどある。でも、明日の朝は、パン工房の棚が先だ。

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