S12-P01 固有スキル【ChatGPT】で異世界全自動化 〜魔法陣はCodexで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜

第23話: 冒険者ギルド、開設

第2アーク · 5,684文字 · revised

その日の朝、レンを起こしたのはカイルの拳だった。

「起きろレン! 今日だ! 今日だぞ!」

ドアが叩かれる——いや、ドアが軋んでいる。蹴っているのかもしれない。

「……何時だと思ってる」

「夜明けだ!」

「だからだ。寝かせろ」

「寝てる場合じゃねえ! 冒険者ギルドの開所式だ!」

レンは枕に顔を埋めた。昨日まで夜通しゴーレムの制御系を調整していた疲労が全身にこびりついている。だがカイルの声量は、どんな防音魔法陣でも防げそうにない。

諦めて起き上がった。

「……わかった。顔洗ったら行く」

「三分で来いよ!」

カイルの足音が駆けていく。窓の外から流れ込む朝の空気が、いつの間にか刺すように冷たくなっていた。吐く息が薄く白い。秋も終わりに近づいている——冬の気配が、もうすぐそこまで来ていた。

***

街の南区画に、新しい建物が一棟建っていた。

二階建ての石造り。入口の上に、剣と盾を交差させた紋章が掲げられている。「冒険者ギルド・ヴィントヘルム支部」——看板の文字はまだ真新しく、朝日を受けて光っていた。

半年前は何もなかった場所だ。交易路の整備と人口の増加に伴い、王都の冒険者ギルド本部から支部開設の認可が下りたのが一ヶ月前。建設はゴーレムが三日で終わらせた。

内装は——人間の職人が仕上げた。グレンの助言で、そうなった。

一階は広い受付ホール。正面に受付カウンター、右手の壁一面が「依頼板」だ。木の板に羊皮紙の依頼書が何十枚も貼られている。薬草採取、魔獣討伐、護衛任務——ランク別に色分けされており、Fランク向けの白い依頼書から、Sランク向けの金縁の依頼書まで整然と並んでいる。まだ貼られたばかりで、どの紙もきれいだった。

左手には掲示板があり、冒険者ギルドの規約が大きく掲示されている。目に留まったのは登録料の欄——銅マナ五枚。パン五個分だ。

「がっはっは! ようこそ、ヴィントヘルム冒険者ギルド支部へ!」

入口に立っていたのは、巨躯の老人だった。

身長百九十センチ。灰色の短髪。左頬から顎にかけて古い大傷が走り、右腕には竜の鱗の刺青。胸元には銀色のメダルが光っている——元Sランク冒険者の証だ。現役Sランクは大陸全体で十人に満たないと言われる最高峰。その引退者が、辺境の支部のギルドマスターに就いたのだ。

ガルド。

ヴィントヘルムの長老の一人であり、かつて「鉄腕のガルド」の異名で大陸中に名を馳せた男。引退後は村の自警団をまとめていたが、支部開設に伴いギルドマスターに就任した。

「おっちゃん! 登録だ! 登録させてくれ!」

カイルが真っ先に受付に突進した。

受付には若い女性が座っていた。王都のギルド本部から派遣された職員だろう。丁寧に整えた栗色の髪を後ろで束ね、制服を着こなしている。辺境の支部に派遣されて不安そうな顔をしていたが、カイルの勢いに完全に圧倒されていた。

「あ、はい。まず登録料の銅マナ五枚をお納めください。それから、こちらの登録用紙にお名前と——」

「カイル! 冒険者志望! よろしく!」

「えっと、記入をお願い——」

「書くのか!?」

カイルが羽ペンを握った。文字を書くのが苦手だということを、レンは知っていた。

案の定、「カイル」の「カ」が鏡文字になっていた。

「……レン、字を教えてくれ」

「今さらか」

レンがカイルの名前を代筆した。受付嬢が申し訳なさそうに微笑む。

「ありがとうございます。では、鑑定石に手を置いてください。スキルとステータスを記録します」

カイルが鑑定石に手を載せた。石が淡く光り、文字が浮かぶ。

名前:カイル
 年齢:17
 スキル:剛力、直感
 推奨ランク:F

「よし! やった!」

「Fランクです」

カイルの笑顔が凍った。

「……F?」

「はい。皆さん最初はFランクからのスタートになります。依頼の達成数とダンジョン攻略の実績を積み、上位冒険者またはギルドマスターの推薦を得ることで昇格できます」

「Fかよ! 俺、ダイアウルフと素手で戦ったんだぞ!」

「素手で挑まれるのは実績ではなく、むしろ安全管理上の問題かと——」

「正論で殴るな!」

レンは静かにカイルの横に並んだ。

「次、俺も」

登録用紙に「レンハルト・コード」と書き、銅マナ五枚を置き、鑑定石に手を置いた。

石が光る。文字が浮かぶ——

名前:レンハルト・コード
 年齢:15
 固有スキル:【生成AI】
 推奨ランク:F

受付嬢の手が止まった。

「えっと……」

鑑定結果を二度見している。三度見した。目をこすった。

「固有スキル……【生成AI】。これは……何でしょうか?」

「説明すると長くなる」

「鑑定石の記録にない固有スキルです。前例がないので、スキル分類が——」

「つまり?」

「分類不能です……」

受付嬢が困り果てた顔でガルドを見た。

ガルドが近づいてきた。腕を組み、鑑定結果を覗き込む。琥珀色の鋭い目が、レンを値踏みするように見た。

「ほう。見たことのないスキルじゃな」

「おっちゃん、わかるのか?」

「わからん。——だが、わからんもんは登録してから確かめりゃいい。冒険者はな、実力で証明するもんだ」

ガルドが受付嬢に顎をしゃくった。

「そのまま登録しろ。スキル欄は『固有スキル:分類不能』で構わん」

「は、はい……」

レンの冒険者カードが発行された。木製の薄いプレートに、名前とランクが刻まれている。

Fランク。

「よっしゃ! レンもFだ! 仲間だ!」

「カイル、それは喜ぶところじゃない」

「同じスタート地点ってことだろ。いいじゃねえか」

カイルが冒険者カードを高く掲げた。朝日がカードに反射して光る。その顔は、Fランクに対する不満などとっくに吹き飛んでいた。

——単純な男だ。だがその単純さが、嫌いじゃない。

レンはカードをポケットにしまった。

***

開所式が一段落した午後。

ギルドの二階にある会議室に、ガルドがレンとカイルを呼んだ。

テーブルの上に、古い地図が広げられている。黄ばんだ羊皮紙に、インクで描かれた地形図。ヴィントヘルムの街を中心に、周辺の森や山脈が記されている。

「見ろ」

ガルドの太い指が、地図の北東を指した。

山脈の稜線を越えた先——そこに、赤い印が付けられていた。

「ダンジョンだ」

レンの目が細くなった。

深淵(しんえん)迷宮(めいきゅう)。この辺境から北東に三日の距離にある。古くから存在は知られておったが、入口が封印されておった」

「封印?」

「およそ三百年前——最初の魔王出現の時代に施された封印じゃ。当時の大魔法陣師と精霊たちが協力して刻んだと伝わっておる。封印の目的は、ダンジョンの奥から溢れ出る瘴気と魔獣を閉じ込めることだった。だが——最近になって、その封印が弱まっている」

三百年。レンの脳裏に、歴史の年表がよぎった。約三百年前は最初の魔王が出現した時期でもある。その頃に施された封印ならば、魔王の脅威と何か関係があるのかもしれない。

「入口が活性化し始めておる」

ガルドの声が低くなった。

「魔獣の活性化も、おそらくこれが原因じゃ。ダンジョンの魔力が地表に漏れ出し、周辺の魔獣を刺激しておる」

レンは思い出した。カイルと初めて会った日——ダイアウルフが増えているという話。イグニスが感じた地下からの精霊力の異変。昨日、丘の上から見えた北東の山脈の光。

すべてが、つながった。

「ワシの若い頃は——」

ガルドが口を開きかけた。

「若い頃の話は後で」

レンが遮った。ガルドが一瞬ムッとしたが、すぐに豪快に笑った。

「がっはっは! 小僧、度胸だけはあるな」

「情報を先にくれ。武勇伝は酒の席で聞く」

「……ふん。言うようになったもんだ」

ガルドが地図を指で叩いた。

「ギルド本部から調査依頼が来ている。ダンジョンの活性化の原因を探り、可能であれば封印を修復すること。依頼ランクはD——本来、Fランクの小僧どもには荷が重い」

「俺たちじゃ駄目なのか?」

カイルが食い下がった。

「規定では、Fランク冒険者が受けられるのは白依頼——採取や低級魔獣の護衛までじゃ。D以上はDランク冒険者の帯同が必要とされておる」

ガルドが腕を組み直した。琥珀色の目が、二人を見据える。

「だがな。この辺境にDランクの冒険者はおらん。ワシが帯同すれば規定は満たせるが——」

「行こうぜ、レン!」

カイルが身を乗り出した。目が輝いている。

「待て。まだ情報が——」

「情報は行ってから集めりゃいい!」

「それは前のダイアウルフの時と同じ発想だろ。あの時死にかけただろ」

「死んでない! 生きてる!」

「論点がずれてる」

レンは地図に視線を戻した。

ダンジョンの入口を示す赤い印の周囲——そこには、何も描かれていない領域があった。等高線も、地形の記号も、何もない。ただの空白。

「ガルドさん」

「おう」

「この空白部分——何があるんだ?」

ガルドの表情が、わずかに変わった。

「わからん」

「わからない?」

「ワシの若い頃——いや、先代の冒険者の時代から、あの領域は未踏破じゃ。調査に入った者はおるが、誰も詳細な地図を持ち帰れなかった」

「……持ち帰れなかった?」

「正確に言えば——記録が残らんのだ。調査者は帰還するが、記憶が曖昧になっておる。何を見たか、どこを歩いたか、思い出せんのだと」

レンの背筋に、冷たいものが走った。

記憶に干渉するダンジョン。前世の知識に照らし合わせると——情報の欠損。データロス。入力はあるのに、出力が消える。冒険者ギルドの百年の歴史を以てしても、あの空白は埋められていない。

「面白いな」

レンの口から、呟きが漏れた。

カイルが横でにやりと笑った。

「な? 行きたくなっただろ」

「……否定はしない」

レンは地図の空白を、じっと見つめた。

***

夕暮れ。

レンは街の外れの丘に立っていた。

昨日と同じ場所。だが、見える景色の意味が少しだけ変わっている。

眼下には、かつての辺境村が——今は活気ある小さな街が広がっている。

パン工房からは煙が立ちのぼり、鍛冶場からは槌の音が聞こえ、新しい冒険者ギルドの窓には明かりが灯っている。大通りを行き交う人々の声。荷馬車の車輪が石畳を転がる音。子供たちの笑い声。

半年前、ここにあったのは畑と藁葺き屋根だけだった。

レンは静かに息を吐いた。白い息が、晩秋の空気に溶けていく。

マルチモーダルの能力は広がった。テキスト、画像、動画、音楽、コード、物理AI——スキル【生成AI】の引き出しは、半年前とは比べものにならない。

仲間もできた。

脳筋だが核心を突くカイル。丁寧語の奥に情熱を隠すメイラ。頑固で温かいグレン。俺様だが信頼できるイグニス。毒舌だが正確なノエル。

そして——パンを焼く手と、ぶっきらぼうな声と、時々震える言葉を持つ、一人の村娘。

グレンが語った「手の温もり」。ヴォルフが言った「剣の形をした鉄」。エルナの「機械じゃ、味が出ない」。

二人の言葉は、違う角度から同じ場所を指している。レンにはまだ、その場所が見えない。

効率だけでは測れないもの。最適化できないもの。

それが何なのかは——まだ、わからない。

だが。

この仲間たちと一緒なら、いつか見つかる気がする。

根拠はない。論理的な理由もない。前世の自分なら「非効率な思い込み」と切り捨てていただろう。

でも、今は——その非効率を、悪くないと思えた。

「あんた」

背後から声がした。

振り返ると、エルナが立っていた。

手に、布で包んだ籠を抱えている。あの新作のねじりパンが入っているのだろう——はちみつと木の実の香りが、夕風に乗ってかすかに漂ってきた。

「冒険に行くんでしょ」

エルナの声は、いつもの素朴な調子だった。だが、目がまっすぐにレンを見ている。

「……まだ決まったわけじゃない」

「カイルが大声で言いふらしてるわよ。『俺たちダンジョン行くぞ!』って」

「……あいつ」

「お弁当」

エルナが籠を差し出した。

レンは受け取った。ずっしりと重い。パンだけじゃない。干し肉や果物も入っている。

「ありがとう」

レンの口から、素直に出た言葉だった。

エルナの目が、一瞬だけ大きくなった。それからすぐに視線を()らし、髪を耳にかけた。

「……別に。余り物だから」

余り物にしては、朝から準備しなければ間に合わない量だった。レンの観察力では、それに気づくのが限界だった。その先——なぜエルナがわざわざ丘まで持ってきたのか、その意味にまでは、まだ届かない。

エルナが背を向けた。

「死なないでよね」

「死なない」

「あんたが言うと、あんまり信用できないんだけど」

「ゴーレムは丈夫だぞ」

「あんた自身の話をしてるの」

エルナの声が、少しだけ——ほんの少しだけ、震えていた。

レンは気づかなかった。

だがイグニスは気づいていた。炎の球体が、ぼそりと呟いた。

「……鈍い男だ」

「何か言ったか?」

「何も言っておらん」

エルナは丘を下り始めた。三歩ほど進んで、一度だけ振り返った。

夕日がエルナの小麦色の髪を金色に染めていた。緑の瞳が、逆光の中で不思議に光っている。レンを見つめる——その目には、言葉にならない何かがあった。

唇が動いた。何か言いかけて——結局、何も言わず、背を向けた。

小さくなっていく背中を、レンはぼんやりと見送った。

胸のどこかが、ざわりとした。

それが何なのかは——まだ、わからない。

レンは籠を抱えたまま、北東の山脈を見た。

昨日と同じ光が——いや、今日はもう少し強くなっている。山脈の稜線の向こうで、何かが脈打つように明滅している。三百年の封印が、ゆっくりと(ほころ)びつつある。

ダンジョン「深淵の迷宮」。

未踏破の空白。記憶を喰らう領域。

何があるかわからない。

だが——わからないものに向かって歩き出すのは、悪くない。前世の自分は、わかるものしか追わなかった。わかるものを最適化して、わかるものだけで世界を構築しようとして——失敗した。

今度は、違う歩き方をしてみたい。

エルナのパンの温もりが、腕の中にある。

カイルの笑い声が、街のどこかから聞こえる。

イグニスの炎が、隣で静かに揺れている。

レンは一歩、丘を下りた。

夕闘の空の下、街の灯りが一つまた一つと点っていく。半年で変わった景色と、まだ見えていないもの。効率だけでは辿り着けない場所が、この世界のどこかにある。

——その答えを探す旅が、始まる。

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