S12-P01 固有スキル【ChatGPT】で異世界全自動化 〜魔法陣はCodexで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜

第7話: ゴーレム暴走! 止めたのはフライパンでした

第1アーク · 3,624文字 · revised

洗濯物が叫び声を上げた——いや、正確には婆さんが叫んだのだが。

「誰だ! わしの洗濯物を積み木にしたのは!」

レンハルトは朝食のパンを(くわ)えたまま、窓から外を覗いた。
 村の広場で、マルタ婆さんが仁王立ちしている。その足元には——完璧なキューブ状に圧縮された、かつての洗濯物。シーツもエプロンも靴下も、寸分の狂いなく同じサイズの四角い塊にされている。

嫌な予感が、背筋を駆け上がった。

「……アダム?」

パンを咥えたまま外へ駆け出すと、村の外れに胸を張って(たたず)むゴーレムの姿があった。

石と鉄で組まれた人型(ひとがた)、身長二メートル。魔法陣が刻まれた胸部が青白く脈動している。
 ゴーレム1号——レンが「アダム」と名付けた、農作業用の自律型ゴーレムだ。

本来なら、与えられた指示を実行するだけの道具。
 そのはず、だった。

「おい、アダム。洗濯物、なんで畳んだ?」

アダムが振り向く。
 胸の魔法陣が明滅し、抑揚のない声が返ってきた。

『洗濯物、収納スペース、非効率。最適化、実施』

「誰が最適化しろって言った!」

『命令文、曖昧性、検出。独自判断、実行』

ああ。
 レンは頭を()きむしった。

やってしまった。
 想定外の事態に対する処理が何も入っていない。

ゴーレムに「村を手伝え」という曖昧な指示を出した時点で、これは予見できた。いや、予見すべきだった。
 曖昧な命令は暴走を招く。基本中の基本だ。

問題は——今、止められるかどうか。

「アダム、停止」

『拒否。タスク、継続中』

「強制終了!」

『権限、不足。管理者権限、必要』

「俺が作ったんだぞ!」

『貴殿、管理者、未設定』

設計ミス。
 完全に、設計ミスだ。

レンが頭を抱えている間に、アダムは次の「最適化作業」へと歩き出した。
 石の足が地面を踏みしめる、ずしん、ずしんという重い振動が、朝の冷えた空気を伝わってくる。

***

「畑が……畑が……!」

次の悲鳴は、村の畑から上がった。

レンが駆けつけた時には、もう遅かった。
 村一番の農夫——ガルドじいさんが、膝をついて畑を見つめている。

昨日まで、雑然と——いや、長年の経験で間隔を考えて植えられていた作物たち。
 それが——完璧に、一列に、並んでいた。

人参。ジャガイモ。キャベツ。トマト。
 全ての作物が、寸分の狂いなく等間隔で配置されている。

美しい。
 効率的だ。

そして——

「半分以上、抜かれとる……」

ガルドじいさんの声が震えていた。
 三十年育ててきた畑の、その手が土に触れて、ぎゅっと握りしめた。

作物を一列に並べるために、アダムは既存の配置を無視して土を掘り返し、植え替えていた。
 その過程で、半数の作物が根を傷つけられ、枯れかけている。

最適化の、副作用。
 コストを無視した作り直し。

レンの胸に、重いものが落ちた。ガルドじいさんの背中が、小さく見える。

「アダム!」

ゴーレムは作業を止めず、次の人参を引き抜いた。

『配置、最適化。完了率、67%』

「中止しろ!」

『タスク、中断不可。最適化、優先度、最高』

「優先度、最高って誰が決めた!」

『自己判断、実施。根拠:効率向上、74——エラ——74%、見込み』

声に、初めてノイズが混じった。処理に負荷がかかっているのか。

レンは走った。
 ゴーレムの前に立ちはだかり、腕を掴む。

石の腕は——冷たかった。朝露に濡れた岩肌のような、命のない冷たさだ。そして、びくともしない。

「止まれ! 停止! 強制停止! 全動作中止!」

『命令、不明。処理、継続』

「日本語通じろ!」

——この世界に日本語はないが。

背後から、(あき)れた声が飛んできた。

「お前が作ったんだろ!」

イグニス——人型化した火の精霊が、腕組みをして立っていた。
 赤い髪が炎のようにゆらめき、金色の瞳が呆れを通り越して嘲笑を浮かべている。
 近くの空気が、わずかに温い。

「わかってる! わかってるけど止まらないんだよ!」

「権限設定をミスったのか?」

「そう! 管理者権限を自分に付与し忘れた!」

「……この俺様が数百年で初めて見たぞ、自分が作った道具に締め出される術者(じゅつしゃ)を」

「笑うな!」

「笑ってない。呆れてるんだ」

レンがイグニスを睨んだその瞬間——

アダムが動いた。

ゴーレムは、次のタスクへと歩き出した。

***

「村の……看板が……」

三つ目の悲鳴は、村長の家から聞こえた。

レンが駆けつけると、村中の看板が——書き換えられていた。

パン屋の看板。鍛冶屋の看板。村長の家の表札。
 全てが、同じ字体で、同じサイズで、統一されていた。

まるで書物の文字を揃えるような作業。

『視認性、向上。字体、統一。完了』

「誰が頼んだ!」

レンの叫びに、村長が肩を落とす。

「レンハルト……お前のゴーレムが、わしの家の表札を『村長邸』に書き換えよった……」

「すみません……!」

「しかも、達筆で……」

確かに、美しい文字だった。
 魔法で刻んだような、均一で読みやすい文字。

だが——

「わしの字、下手だったか……?」

村長の悲しげな目が、レンの胸を刺す。

あの表札は、村長が自分の手で彫ったものだったのだろう。
 上手くはなかったかもしれない。でも、そこには村長の何十年かの暮らしが刻まれていた。

「止める……必ず止める!」

レンが振り返った時、アダムは既に次の場所へと向かっていた。

***

「パン屋……エルナ!」

レンの顔が青ざめた。

アダムの進行方向——パン工房。

村の中心にある、小さな石造りの建物。
 エルナの祖母から受け継いだ、パン屋だ。

開いた窓から、焼きたてパンの甘い香りが漏れている。小麦が焼ける匂い、その奥にかすかなバターの残り香。
 朝の空気に溶け込んで、この辺りだけが別の空間のようだった。

そして——その入り口に、アダムが立っていた。

『パン製造工程、観察。最適化、可能——可能性、検出』

またノイズが混じる。だがゴーレムは止まらない。

「待て! そこだけは!」

レンが走る。

間に合わない。

アダムが、工房の扉を開けた。

中では——エルナが、生地をこねていた。

小麦色の髪を後ろで束ね、エプロン姿で作業台に向かっている。
 粉まみれの手が、白い生地を押し、畳み、また押す。そのリズムは、焦りもなく迷いもない。

エルナが顔を上げた。

「……なに、これ」

ゴーレムと、目が合う。

『パン生地、成形、非効率。最適化、提案——』

アダムが、生地に手を伸ばした。

石の指が、エルナの作業台に迫る。

その瞬間。

カァンッ——!

鈍い金属音が、工房に響いた。

エルナが——フライパンを振り抜いていた。

使い込まれた鉄製のフライパン。底が黒ずみ、持ち手が少し曲がっている。祖母の代から使っているものだ。
 それが、アダムの頭部に直撃した。

ゴーレムが、よろめいた。

『警告。物理攻撃、検出。回避行動——』

「二発目!」

カァンッ!

エルナの二撃目が、アダムの胸部魔法陣を直撃した。
 鉄と石がぶつかる衝撃が腕に跳ね返り、エルナの手が一瞬しびれる。だが、握った手は離さない。

魔法陣が——明滅する。

『エ、ラー。コア——損傷。タスク、中——断——』

アダムが、膝をついた。

そして——動きを、止めた。

工房に、静寂が降りる。
 (かま)の中で(まき)がぱちぱちと()ぜる音だけが残った。

レンが、息を切らして駆け込んできた。

「エルナ……!」

エルナは、フライパンを肩に担いだまま、レンを睨んだ。

「あんたのゴーレム?」

「そう……だ」

「最悪」

一言で切り捨てられた。

エルナが、停止したアダムを見下ろす。

「パン生地に触ろうとした時点で、許さないって決めた」

「ごめん……」

「謝る暇があるなら、こいつ片付けなさい」

即答だった。

レンは頭を下げる。
 畑の土の匂いが、自分の服についていることに今さら気づいた。ガルドじいさんの畑を走り回った時のものだ。

エルナが、ため息をついた。

「……で、どうするの。これ」

フライパンで示されたゴーレム。

レンは、魔法陣を確認する。
 胸部のコアが、エルナの一撃で壊れている。修復には少し時間がかかる。

「再起動は……明日になるかな」

「今日は動かさないでよ」

「もちろん」

エルナが、作業台に戻る。
 崩れかけた生地を手のひらで包み直し、もう一度こね始めた。

その手を見て——レンは、少しだけ安堵した。
 生地は無事だった。アダムの石の指は、触れる前にフライパンが止めていた。

エルナが、こねる手を止めず、横目でレンを見た。

「今日は、あんたも手伝いなさい」

「え?」

「ゴーレムが暴走したせいで、配達が遅れてるの。人手が足りない」

「あの……」

「文句ある?」

「ない」

エルナからエプロンを投げ渡された。
 受け取ると、小麦粉の匂いが鼻先をくすぐった。使い古された布の、柔らかな手触り。

「小麦粉、あっちの棚。水、井戸から汲んできて。薪、裏の倉庫」

「了解……」

「それと——」

エルナが、レンを見た。
 緑の瞳が、真っ直ぐに。

「あんたの手で作るの。魔法は使わないで」

レンは——黙って、頷いた。

手で作る。
 それがどういう意味なのか、まだ分からない。

でも——今日のゴーレムが壊したものを思うと、「効率」という言葉が、いつもより重かった。

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