S08-P01 魔王(よしこ62歳)と勇者パーティ

第20話: 飴ちゃんあげよか

第2アーク · 4,950文字 · draft

◆よしこ視点

朝の厨房。

わてはご機嫌やった。

「ふんふ〜ん(^^)」

鍋の中で、蜂蜜がとろとろ煮詰まっていく。

ここに、ちょっとだけ塩を入れる。甘いだけやと飽きるからな。

火を止めて、木の型に流し込む。

蜂蜜飴。

前の世界でいう飴ちゃんや。

大阪のおばちゃんにとって、飴ちゃんは装備品みたいなもんや。カバンの中に常備。会った人に配る。子どもにも、おじいちゃんおばあちゃんにも、スーパーのレジのお姉さんにも。

保育園でもそうやった。

泣いてる子がおったら、まず飴ちゃん。落ち着いてからお話。

飴ちゃんは魔法やないけど、魔法みたいなもんや。

「さてと」

型から外す。

小さな、琥珀色の飴が、ずらっと並んどる。

ええ感じ。

「……ちょっと作りすぎたかな」

数えたら、200個あった。

——ま、ええか(^^)

保育園でも余ったら配ったし。

ここにも、配ったらええやん。

わてはエプロンのポケットに飴を詰め込んだ。

魔王のローブのポケットにも。

ティアちゃんにもらったカゴにも。

「飴ちゃんあげよか(^^)」

わては城の廊下に出た。


最初に出会ったんは、見回り中の魔族の兵士やった。

鎧を着た、がっしりした男。角が二本。赤い肌。

わてを見た瞬間、直立不動になった。

「ま、魔王様!」

「おはよう(^^)」

「お、おはようございます!」

「はい、これ」

飴を一つ、手のひらに乗せた。

「……え」

兵士が固まった。

「飴ちゃん。蜂蜜で作ったんよ(^^)」

「あ、飴……? ま、魔王様が……飴を……?」

「甘くて美味しいで。はい」

「は、はぁ……」

兵士が恐る恐る飴を受け取った。

わてを見て、飴を見て、またわてを見て。

「……食べてええんか——あ、いえ、よろしいのでしょうか……」

「ええよええよ(^^) 食べて食べて」

兵士が飴を口に入れた。

「…………」

目が、丸くなった。

「……美味い」

「やろ?(^^)」

「あ、ありがとうございます……!」

兵士が深々と頭を下げた。

——顔、赤いな。照れとるんか。

ええぞええぞ。

甘いもんは正義や(^^)


次は、廊下の角を曲がったところで、獣耳族の兵士に出会った。

犬みたいな耳。ふさふさの尻尾。ティアちゃんと同じ種族かな。

「は、はい……?」

「飴ちゃんあげよか(^^)」

「あ、飴……」

手に乗せた。

獣耳の兵士が、飴を見つめた。

鼻をひくひくさせた。匂いを嗅いどるんか。

尻尾が——

パタパタ。

「…………」

本人は気づいてへんけど、尻尾が高速で振れとる。

「……い、いただきます!」

飴を持って、ぱたぱたと走り去った。

——あの子、仲間に配りに行ったな。

わかるで。保育園でもそうやった。飴もらった子は、必ず友達に見せに行く。


門番の前を通った。

鱗族の魔族。でっかい。全身が青い鱗で覆われとる。

槍を持って、微動だにせず立っとる。

「飴ちゃん、どう?(^^)」

「……我は」

低い声。

鱗族って無口なんやな。

「我は……甘味が、苦手だ」

「そうなん? これ、ちょっと塩入れてるから、そんなに甘くないで」

「…………」

沈黙。

槍を持つ手が、ぴくっと動いた。

「……一つだけ」

「はいどうぞ(^^)」

大きな手が、小さな飴を一つだけ、つまみ上げた。

口に入れた。

「…………」

「…………」

「……二つ目を、もらえるか」

「ええよ(^^) 何個でも」

鱗の顔に表情は出にくいけど——目が、ちょっとだけ柔らかくなった気がした。


城の中を歩き回った。

すれ違う魔族、全員に配った。

廊下の掃除をしとった侍女に。

武器を磨いとった兵士に。

書類を運んどった文官に。

厨房で鍋を洗っとった料理番に。

反応はみんな違った。

泣きそうになった文官がおった。「先代の時代には菓子など……」って呟いとった。

無言で三回おかわりに来た料理番がおった。

飴を懐に入れて「家族に持って帰ってもいいですか」って聞いてきた兵士がおった。ええよ、もちろんええよ。

保育園とおんなじや。

飴一つで、全員が違う反応をする。でも——最後に甘いもんを口に入れた瞬間、みんなおんなじ顔になるねん。

ちょっとだけ、力が抜けた顔。

甘くて、温かくて、ちょっとだけ幸せな顔。

魔族も人間も、おんなじやな(^^)


ドルガくんの部下に会ったんは、訓練場の近くやった。

筋肉もりもりの魔族が三人、汗だくで素振りをしとった。

「あんたら、頑張っとるなぁ。はい飴ちゃん(^^)」

「は、はい! ありがとうございます!」

飴を受け取って、三人で顔を見合わせとる。

「……これ、ドルガ様にも持ってったほうがええんちゃう——あ、いえ、よろしいでしょうか」

「もちろん(^^) はい、ドルガくんの分もあげるわ」

飴を多めに渡した。

三人が走っていった。

——ドルガくんのとこに持ってくんやろな。

あの甘党さん、喜ぶやろな(^^)


◆魔族兵士A視点

訓練場の隅で、俺は飴を舐めていた。

甘い。

蜂蜜の味がする。ちょっとだけ塩が入ってて、それが蜂蜜の甘さを引き立てとる。

——魔王様が、くれた。

直接、手渡しで。

先代魔王の時代には考えられんかった。

先代は——俺たち下っ端の顔なんか見なかった。命令が降りてきて、それに従うだけ。名前も知らん。向こうも俺らの名前なんか知らん。

でもあの魔王は——

「おはよう(^^)」

——って、笑って、飴をくれた。

「……美味いな、これ」

「うん」

隣で、鎧磨き担当のゾルが頷いた。

「なぁ、お前もらった?」

「もらった。廊下でいきなり」

「俺も。門番のグラットも二つもらったって」

「二つかよ。俺は一つだぞ」

「門番は暇だからな。二つ目おかわりしたらしい」

「ずるい」

——何の話をしてるんだ、俺たちは。

魔王軍の兵士が、飴の個数で張り合ってる。

でも——

「……なぁ」

「ん?」

「……最近、城の空気、変わったよな」

「……うん」

変わった。

「おはよう」が聞こえるようになった。

厨房からいい匂いがするようになった。

訓練の後に、おやつが出るようになった。

そして今日は——飴だ。

「……なぁ、ゾル」

「ん?」

「……魔王様、お前の名前、知っとったか」

「……知ってた」

ゾルが飴を舌の上で転がした。

「飴渡す時——『ゾルくん、飴ちゃんどう?(^^)』って。名前呼んで、笑っとった」

「…………」

「俺もだ。『あんた、昨日も頑張っとったなぁ』って。いつの間に見てたんだ」

先代魔王は——俺たちの名前なんか知らなかった。顔を見たことすらなかったかもしれない。

でもあの魔王は、一般兵の名前を——覚えてる。

「……いい城だな、ここ」

「……うん」

隣のゾルも、飴を舐めながら黙って頷いた。


◆よしこ視点

さて。

一般兵には配り終わった。

次は幹部や。


「あら、魔王様。何やら素敵な匂いがいたしますわ」

メルが、にっこり笑いながら近づいてきた。

「飴作ったんよ。はいどうぞ(^^)」

「飴でございますか。わたくし、甘いものには特に興味は——」

飴を一つ、手のひらに乗せた。

「…………」

メルの目が、飴に吸い寄せられとる。

「——あっ」

口に入れた。

「…………」

「…………」

メルの表情が、一瞬だけ——無防備になった。

「……美味しゅう……ございます」

小声やった。

策士の顔が完全に消えて、ただのお菓子好きの女の人になっとる。

「おかわりある?(^^)」

「い、いえ、わたくしは別に……もう一つだけ、いただきますわ」

二つ目を受け取るメルの手が、ちょっと早かった。


「よしこーーーー!」

空から降ってきた。

ピプが羽根をばたばたさせながら、わての周りをぐるぐる回っとる。

「飴ーーー! 飴くれるってーーー! もらったーーー! もっとーーー!」

「ピプ、落ち着き(^^)」

「もっともっともっとーーー!」

ピプがわてのカゴに頭を突っ込んだ。

飴を三つ掴んで、口に全部入れた。

「ほっぺた膨らんどるで(^^)」

「ふぁんふぁいへいひー!(なんでもないー!)」

「よう喋れるな、それで」

ピプの羽根がぱたぱたぱたぱた全開で動いとる。

嬉しい時の合図や。

「もっとーーー!」

「あかん、一人三個までや(^^)」

「えーーーー!」

「みんなの分がなくなるやろ」

「えーーー……じゃあ、あとで!」

「あとでな(^^)」

ピプが飛んでいった。

——あの子、絶対あとで10回は「あとで」って言いに来るな。


「……ティアちゃん」

「は、はい!」

ティアちゃんが、飴配りを手伝ってくれとった。

小さなカゴに飴を入れて、わてについてきてくれとる。

尻尾がパタパタしとる。本人は気づいてへん。

「ティアちゃんも食べてな(^^)」

「え……わ、わたしも、ですか……?」

「当たり前やん。手伝ってくれたんやもん」

飴を一つ、ティアちゃんの手に乗せた。

「…………」

ティアちゃんが飴を口に入れた。

尻尾が——

パタパタパタパタパタ。

最高速度や。

「……お、美味しい、です……」

「でしょ(^^)」

ティアちゃんが嬉しそうに笑った。

尻尾で全部バレとるけど、ええんよ。


200個の飴が、全部なくなった。

夕方。

城の空気が、朝と変わっとった。

廊下ですれ違う兵士が、「ああ、魔王様」って頭を下げる——その顔が、前よりちょっと柔らかい。

訓練場から笑い声が聞こえた。飴の話をしとるんやろな。

門番のあの鱗族が、次の門番に「飴をもらった」って報告しとった。業務連絡みたいに。

——ええなぁ。

飴一つで、世界は変わらへん。

でも、飴一つで、一人の顔はちょっとだけ変わる。

それが200人分集まったら——城の空気は、変わるんや。

保育園でもそうやった。

最初は泣いてた子が、飴もらって泣き止んで、次の日から「おはよう」って言えるようになって。

そういう小さいことの積み重ねが、全部や。


「魔王様」

夕方、ヴェルちゃんがやってきた。

「ん? どしたん(^^)」

「恐れながら、ご報告がございます」

「なになに」

「本日、魔王軍の士気が——」

ヴェルちゃんが言葉を探しとる。

「上がった?(^^)」

「……はい」

「よかったやん(^^)」

「……飴で」

ヴェルちゃんが深い溜息をついた。

「300年の軍史において、飴で士気が向上した記録はございません」

「ほな、初めてやな(^^) 歴史に残るで」

「残していいものか判断に苦しみます」

「ヴェルちゃんも食べる?(^^) 一個だけ残してあるで」

「ヴェルザです。——いただきます」

ヴェルちゃんが飴を受け取った。

飴を見つめとる。小さな琥珀色の粒を。

——300年、戦場で生きてきた四天王筆頭が、蜂蜜飴を手のひらに乗せて眺めとる。

口に入れた。

「…………」

ヴェルちゃんの目が——一瞬だけ、閉じた。

ほんの一瞬。でも、わてにはわかった。

「…………」

「……魔王様」

「ん?」

「……美味しゅうございます」

声が、少しだけ——柔らかかった。いつもの軍人口調の角が、蜂蜜で溶けたみたいに。

「せやろ(^^)」

「……まったく。この城は——」

ヴェルちゃんがまた溜息をついた。

でも——その溜息は、いつもよりちょっとだけ柔らかかった。

「明日も作ろかな(^^)」

「……ご勝手に」

「ヴェルちゃんの分も作るからな(^^)」

「ヴェルザです。——……ありがとうございます」

最後の一言が、すごい小声やった。

聞こえたけど、聞こえんふりしとこ。

——さて。明日は何味にしようかな。

レモン味もええかもしれん。

この城には、まだまだ甘いもんが足りてへんからな(^^)


【あとがき】

最後まで読んでいただきありがとうございました。

前話のシリアスから一転、コメディ全開回です。よしこ、飴を200個作って城中に配る。大阪のおばちゃんの行動力、おそるべし。

書いていて楽しかったのは、魔族一人ひとりのリアクションです。困惑→恐る恐る→「美味い」→照れる。全員同じパターンなのに、全員違う。鱗族の門番が「二つ目をもらえるか」って聞くところが個人的に好きです。甘いもの苦手って言ったやん。

魔族兵士Aの視点を入れたのは、「城の空気が変わる」を一般兵の目で描きたかったからです。先代魔王は名前も顔も知らない存在だった。でもよしこは「おはよう(^^)」って笑って飴をくれる。それだけで——兵士たちにとっては、革命なんです。

飴で革命。300年の軍史初。ヴェルザが頭を抱えるのも無理はない。

次回、第21話「廊下の二人」。深夜の廊下で、レオンとドルガがこっそり字の勉強をしています。見つけたのは——ティア。三人の秘密の勉強会が始まります。

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